• 新興国でTWS(完全ワイヤレスステレオのイヤフォン)の普及進むなか、エントリーレベル(50米ドル、約7,500円未満)のセグメントの成長が続いている。
  • AppleSamsungSonyなどの高級機のブランドは、新機種がなく成長が鈍化した。
  • 2023年通年でみれば、TWSの販売は台数ベースで2%増加するが、金額ベースでは3%減少とみられる。新興国で低価格TWSの比率が増えていることが理由である。

 

Counterpointが提供するTWS Hearables Market Trackerの最新調査によれば、世界のTWS(完全ワイヤレスステレオのイヤフォン)の販売は2023年上半期に前年同期比わずか2%減少にとどまった。マクロ経済の逆風と消費者心理が冷え込んでいるなかで、IT機器への需要が低迷している中での数字である。意外にも、TWS市場はインフレ圧力に対して耐性があるようである。特に50米ドル(約7,500円)未満のエントリーレベルのセグメントでは、2023年上半期の販売は前年同期比で15%も伸びた。TWSの需要がエントリーレベルと高価格帯に二極化するなか、エントリーレベルの成長が高価格帯の落ち込みを相殺したかたちである。

 

価格帯による明暗は、地域ごとの需要動向にも起因している。2023年上半期には、TWSがすでにかなり普及している北米や欧州などの成熟市場では需要が落ち込んだ。その一方で、インド、中東、アフリカ、中南米などの、普及がこれから始まる新興市場では、同時期に力強い成長を記録した。世界最大のTWS市場のひとつ、中国では、COVID-19によるロックダウンが2022年後半から緩和され、回復の兆しが見られた。加えて、中国で恒例の618ネット商戦も2023年上半期の伸びを支えた。低価格帯のTWSメーカーがここにきて出現したことも注目される。エントリーレベル機種を売る中国メーカーZhengQibingは、販売台数が2023年上半期に前年同期比141%伸びた。20北米ドル(約3,000円)未満の機種に集中し、高機能とCMF(訳注:Color Material Finishの略。触れるものの色や質感など表面のデザインのこと)を重視したデザインによって、好業績をあげた。

出典:TWS Hearables Market Tracker

 

さらに、インドなどTWSの普及が遅れている巨大市場で需要が高まったことが、中国市場の回復と合わせて、50米ドル未満の価格帯の成長を加速させた。インドにおける2023年第2四半期のTWS出荷は前年同期比34%増加し、世界シェアの15%を占めた

 

そのインドでは、boAt、Boult Audio、Noiseなどの自国のTWSメーカーが、エントリーレベル機種のラインナップを広げ、2023年第2四半期に前年同期比で二桁の大きな伸びを記録した。boAtはAmazon Prime Day、Flipkart Big Saving Daysなどのネット通販イベントを活用し、新発売の低価格モデルの需要を掘り起こした。Boult Audioは特に値ごろであることを意識し、25米ドル(約3,800円)未満の新機種を戦略的に投入し、顧客の興味を引いた。Noiseの主力機種であるNoise VS102やVS404は、価格、十分な音質、長い電池寿命のおかげで人気が高い。加えて、2023年のNoise Anniversary Salesの期間中、同社はオーディオ製品を最大80%値引きした。25米ドル未満(小売り価格)の機種の性能を改善したことも、販売を加速させるうえで大きく貢献した。

出典:TWS Hearables Market Tracker

 

さて、その一方で、AppleSamsungSonyなど世界で事業展開する主要メーカーの市場シェアは低下し、新機種不在のなか成長も鈍化している。こうした高級機中心に展開するメーカーは機能の向上が少しずつなのに対して、これに挑戦する側である低価格機種を展開する各メーカーは、デザイン、オーディオ機能、遅延、電池寿命などでイノベーションを起こしている。Samsungも、Galaxy Buds 2で積極的な値付けやプロモーションを行ったにもかかわらず、高価格帯の販売シェアを大きく落とした。売れ筋の価格帯が50~100米ドル(約7,500円~15,000円)がシフトしたからである。全体的に、新機種が投入されなかったことと、目を引く新機能に乏しいことで、2023年上半期は買い替え需要を掘り起こすことができなかった。近々発売の、H2チップを搭載しロスレスオーディオにも対応したAirPods 2は、これも近々発売のApple Vision Pro XRヘッドセットに最適化されていることもあり、2023年第4四半期の歳末商戦で高価格帯が成長する材料になるかもしれない。

 

今後の見通しとしては、世界のTWS市場の販売台数は2023年通年では前年比2%成長の見込みであるが、売上ベースでは前年比3%減少の見込みである。TWS市場は2026年まで成長を続け、新品スマホ購入時に一緒に購入される割合は36%になるとみられる。TWSの買い替えサイクルは1.5~1.8年になりそうである。

 

 

【カウンターポイント社概要】

カウンターポイント社(英文名Counterpoint Research HK)はTMT(テクノロジー・メディア・通信)業界に特化した国際的な調査会社である。主要なテクノロジー企業や金融系の会社に、月報、個別プロジェクト、およびモバイルとハイテク市場についての詳細な分析を提供している。主なアナリストは業界のエキスパートで、平均13年以上の経験をハイテク業界で積んでいる。

公式ウェブサイト: https://www.counterpointresearch.com/