中国スマートフォン市場、2025年上半期に前年比成長の見込み
――競争環境を再構築する5つの変化
中国のスマートフォン市場は、2025年上半期に前年比1.4%の成長が見込まれています。これは、不透明感が広がるグローバル市場の中にあって、一定の安定要因となる可能性があります。
このような成長の裏には、政策・テクノロジー・ブランド戦略における急速な変化が存在しています。カウンターポイント・リサーチの「中国スマートフォンテクノロジー・インテリジェンス・トラッカー」では、2025年上半期に市場構造へ大きな影響を与えた5つの主要動向を取り上げ、業界関係者の皆さまが次の一手を打つためのインサイトをご提供しています。
1. 国家補助金制度、効果を上げつつも実施上の課題が表面化
中国政府は、828ドル(約6,000人民元)以下のスマートフォンを含む電子製品の消費を促すために、約414億ドル(3,000億元)規模の補助金プログラムを導入しました。これにより、第1四半期のスマートフォン売上は大幅に増加しましたが、制度運用上の課題も浮き彫りになっています。
特に、制度の複雑さにより中小ブランドの参加が難しく、理解と対応が可能な大手小売業者やベンダーが有利となりました。その結果、HuaweiやXiaomiなどはこの制度を効果的に活用し、恩恵を受けています。
当社のサプライチェーン調査によりますと、この補助金制度は2025年下半期、さらには2026年まで継続される見通しです。ただし、市場の成熟に伴い、このような大規模インセンティブの効果は徐々に薄れつつあります。
2. Apple、大幅値下げで618商戦の首位に
2025年の「618ショッピングフェスティバル」において、AppleはiPhone 16シリーズの値下げを通じて大きな成果を上げました。とりわけiPhone 16 Proは、国家補助金の対象にもなり、128GBモデルが発売当初より30%以上安い価格で提供されました。
この価格戦略により、Appleは618商戦期間中の売上でトップに立ち、前年比8%の成長を記録しています。iPhone Proモデルにおけるここまでの大幅な値下げは、近年では例を見ない規模です。
3. Xiaomi、初の自社開発AP「Xring O1」を発表
**Xiaomiは自社初のアプリケーションプロセッサ(AP)「Xring O1」**を発表しました。これは、約4年にわたる研究開発と18億ドル以上の投資による成果であり、同社のプレミアム路線への注力を象徴しています。
Xring O1は、Xiaomi 15S Proおよび同社のタブレットシリーズに搭載されます。業界調査によれば、O1の出荷の約3分の1はスマートフォン、残りはタブレット向けとなる見通しです。次世代Xringチップもすでに開発が進められており、出荷台数はO1の2倍に達すると予想されています。
また、XiaomiはEV事業への取り組みによって若年層とのブランド親和性を高めており、高価格帯スマートフォン市場における存在感を一段と高める可能性があります。
4. AIは依然トレンド、しかし実用性が重視される方向へ
中国では引き続きAIが重要なトピックとなっていますが、スマートフォンOEM各社はより実用的なアプローチを模索しています。カウンターポイントが実施した調査によれば、中国のスマートフォンユーザーの76%が「AIに馴染みがある」と回答しており、技術認知度は高い水準にあります。
しかし2025年には、デバイス内AIの派手なアピールよりも、日常生活に根差したユースケースの提供が重視されるようになっています。たとえば、**OPPOの「Xiaobu Memory」**は、ユーザーのマルチメディアメモ管理をサポートし、ユーザー維持率の向上につながっています。
また、テンセントがWeChatにAIエージェントを導入し、決済から配車サービス、フードデリバリーに至るまでサービス連携を強化するなど、スマートフォン以外のプレイヤーとの競争も激化しています。一部のインターネット企業は、自社スマートフォンの発売を検討している動きも見られます。
このような状況により、スマートフォンは従来の「製品」から、「ユーザー接点の中心」へと役割を変えつつあります。
5. サプライチェーンは安定も、コスト上昇の兆し
業界関係者へのインタビューを通じて、2025年上半期はスマートフォンの主要部品価格が概ね低下したことが明らかとなっています。例外はDRAMなどのメモリであり、引き続き価格上昇の傾向が見られます。
とくに、ローエンドおよびミッドレンジ機種では、メモリ価格の上昇や新部品の採用、さらにレアアース不足による製造地の一時的な中国移転などにより、下半期にコスト圧力が高まる可能性があります。
当社は、中国スマートフォン市場の2025年通年の出荷台数は、前年比1%未満の成長にとどまると予測しています。経済の逆風が続く中、政府の補助金制度が一定の支えとなり、プレミアムセグメントの堅調な需要が引き続き市場全体を支えると見られます。
カウンターポイント・リサーチについて
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当社は、世界中の主要なイノベーション・ハブ、製造クラスター、商業都市に拠点を構え、スマートフォンOEM、チップメーカー、チャネル企業、大手テクノロジー企業に至るまで、幅広いクライアントにサービスを提供しています。
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