CES 2025が開幕しました。カウンターポイント・リサーチ・エイチ・ケー(英文名:Counterpoint Research HK、以下カウンターポイント社)のアナリストたちも参加し、重要なプレゼンテーションの内容と、ハイテク業界にもたらす意味を分析していますので、速報でお届けします。
1.NVIDIA: Physical AIと自動車進化の時代を切り開く
出典: NVIDIA
NVIDIAのCES 2025におけるキーノートスピーチは、同社のAIにおけるリーダーシップと、自動車セクターにおける役割の拡大とを、示すものでした。CEOのJensen Huang(ジェンスン・ファン)氏Project DIGITSを紹介しました。これは、Blackwell AIチップを搭載した個人用AIスーパーコンピューターで、AI研究者がクラウドインフラに頼らずAIモデルの開発を独自に行えるようにすることを狙ったものです。高性能AIがデスクトップで使えるようになることで、AI開発のいわば民主化の流れのマイルストーンと言えるでしょう。
NVIDIAはまた、Ada Lovelanceアーキテクチャ(ディープラーニング用のTensorコアと、高画質CGのレイトレーシングコアを搭載し、AIによるフレーム補間も行う)を採用するGeForce RTX 50シリーズのGPUも発表しました。前身機種と比べ最大2倍の性能向上が図られています。が、NVIDIAの発表の中で最も目を引いたのは自動車分野における取り組みでしょう。NVIDIAのDrive Thorプラットフォームは、最新のAI技術を駆使し、認識と判断の能力を高めることで、現状での自動運転技術の限界点を押し上げ、自動運転に革命を起こそうとしています。
カウンターポイントの視点
NVIDIAは、半導体ハードウェアと、AIフレームワークとの、両方を進化させる戦略を採っており、それによって業界で唯一無二のポジションを得ています。AIの研究開発と実際のアプリケーションとの橋渡しをすることで、NVIDIAは、スマートホームから自動運転車に至るまで、日々の暮らしにAIが溶け込んでいる未来の実現に向けて着々と道を固めていると言えるでしょう。同社が重点を置くphysical AIは、AIが単なる情報処理ではなく、我々の物理世界と直接かかわることで、物流や製造などの分野での自動化を推進する意図の表れです。
2. AI TV:ホームエンタテイメントの再定義
出典:Counterpoint Research
SamsungとHisenseは、それぞれ次世代ディスプレイを展示しました。いずれもAI機能を取り込んで視聴体験を進化させる狙いです。SamsungのVision AIはリアルタイムに視聴者とのインタラクションを行うもので、例えば俳優の名前を表示したり、サブタイトルの字幕を翻訳したりします。Hisenseのテレビは163インチの大画面と最大10,000nitの明るさを誇りHi-View AI Engine Xを搭載しています。ホームエンタテイメント関連技術に新たなベンチマークを確立した機種です。
カウンターポイントの視点
こうした新商品の登場は、テレビが映された画像を見るだけの受け身の機器から、インタラクティブに操作するハブへと、進化するトレンドの表れです。AIとディスプレイ技術とを融合させることで、よりパーソナライズされた、没入感の高い体験を届けることができるからです。AIを統合することで、コンテンツのリコメンドをカスタマイズでき、よりスマートなインターフェースが提供できるので、TVはコネクテッド・ホームの中核機器になるでしょう。
3.半導体メーカー:処理能力の次の飛躍
出典:Qualcomm
NVIDIAはAIに関する幅広い取り組みによって半導体メーカーの中でも一歩抜きんでていますが、Qualcomm、Intel、AMDなどの他社も、性能と電力効率の向上に重点をおいた最新のCPUやGPUを発表しています。ミニPC向けのQualcomm Snapdragon XシリーズやIntelの第14世代コア搭載のプロセッサは、処理能力の向上が継続的に行われていることを示しています。
カウンターポイントの視点
半導体チップ各社の新製品からは、この市場が成熟し、性能向上は革新的というより一歩ずつの進化によってなされていることがうかがえます。AIアクセラレータとエネルギー効率はともに必須です。もっと速く、でもサステナブルなコンピューティングを、というニーズが世界的に高まっているからです。
4.ラップトップ: 形状と機能にイノベーション
出典:Lenovo
LenovoのThinkBook Plus Gen 6 RollableとIdeaCentre Mini xは新しい形状と機能を提案する製品です。Rollableのディスプレイは14インチから16.7インチにサイズを拡大でき、マルチタスクを容易にしています。一方、Mini xはQualcommのSnapdragon 8cx Gen 4を搭載し、性能と持ち運びやすさを高いレベルでバランスさせています。
カウンターポイントの視点
Lenovoのイノベーションが示す方向性は、ユーザーそれぞれのニーズに適応できるようなデバイスです。モバイルで高い生産性を求めるユーザーの増加に対する同社の答えといえるでしょう。Rollableディスプレイは、用途に合わせてスクリーンサイズを調節できるという点で、ラップトップのデザインを再定義することになるかもしれません。
5.ウェアラブル:よりスマートで堅牢に
出典:Garmin
GarminのInstinct 3スマートウォッチは、AMOLED(アクティブマトリクスを使用するOLED)をこのシリーズとして初めて採用しました。これによって画像の鮮明さと色の鮮やかさを向上させています。同社はまた、Instinct Eスマートウォッチも発表し、こちらは軽さと値ごろな価格設定が特長です。Garminの高級機セグメントにおける堅牢さと機能とを追及する姿勢がうかがえます。電池寿命が延び、ディスプレイが改善され、AIによるフィットネス管理搭載されたGarminのウォッチは、性能・機能と価格の水準を一歩前進させました。
また、フランスのハイテク企業Circularは同社の第二世代リングであり心臓の健康に重点を置いたCircular Ring 2を発表しました。この製品は、FDA認可の心房細動検出アルゴリズムと、測定データの精度を高めるための改良型センサーを搭載しています。このリングは最大8日の電池寿命を持ち、ヘルスケア重視型のウェアラブルにおける強力なライバルになりました。
カウンターポイントの視点
ウェアラブル市場では、ヘルスケア機能と堅牢さを競う動きが加速しています。Garminが、AMOLEDを採用した機種を追加したり、値ごろなInstinct Eを出したりしたことは、高級機の機能をより広い顧客層に提供するトレンドを示しています。また、Circularが心機能のモニタリングを重視したCircular Ring 2を発表したことは、ユーザーのニーズに沿った特化型ウェアラブルへの変化を示しています。AIが今後もよりスマートでパーソナライズした体験を届け続けるなかで、ウェアラブルはメンタルも含めたウェルビーイングの向上にとって不可欠なツールになりつつあります。
6.スマートホーム:AIによる利便性の提供
出典:Panasonic
Roborock Saros Z70(格納式のロボットアームを搭載したロボット掃除機で、簡単な片付け作業もできる)とPanasonicのUmiプラットフォーム(家族の健康促進やコミュニケーション向上のためAIが様々な提案をリアルタイムで提供)はAIがいかにスマートホームをよりスマートに、自律的なものにできるかを示しました。単純作業の自動化から、積極的な家庭内の管理作業の実施や家族一人ずつに寄り添ったサービスへの進化が見て取れます。
カウンターポイントの視点
こうしたスマートホームの進化は、家事全般の総合的な管理を行うシステムへの流れを表しています。そんなシステムにおいて、AIは家庭内のニーズを先読みし、ユーザーの習慣に合わせることで、家庭をより効率的で、かつユーザーセントリックな環境へと変化させるでしょう。
7.自動車と農業:先進的な自動化
出典:Counterpoint Research
BMWのPanoramic iDriveはユーザーインターフェースにおける飛躍といえるでしょう。AIを統合することで、音声コマンドやハプティックフィードバック(振動などによる触覚フィードバック)による直観的な運転体験を提供するものです。また、John Deereは自律走行トラクター9RXを発表し、自律によっていかに農業に革命を起こせるかを示しました。このトラクターは16個のカメラを通じて360度の視野をもち、精密農業を実現します。これによって畑を効率よく安全に管理できるだけでなく、労働者不足にも対応できます。
カウンターポイントの視点
自動車と農業セクターはともにAIによる自律を通じた生産性と安全性の向上を狙っています。BMWのPanoramic iDriveはAIがいかに運転体験を高められるかの好例です。またJohn Deereの自律走行トラクターは、AIが農業を一変させる可能性を示しました。効率的でサステナブルな農作業への道を拓いたと言えます。自動車と農業、この二つのセクターでの自律の進展は、AIがいかに幅広い産業分野で活用できるかを示しています。
【カウンターポイント社概要】
カウンターポイント社(英文名Counterpoint Research HK)はTMT(テクノロジー・メディア・通信)業界に特化した国際的な調査会社である。主要なテクノロジー企業や金融系の会社に、月報、個別プロジェクト、およびモバイルとハイテク市場についての詳細な分析を提供している。主なアナリスト陣はハイテク業界で長年の経験を積んだエキスパートである。
公式ウェブサイト: https://www.counterpointresearch.com/