毎年スペインのバルセロナで開催されている世界最大級のモバイル技術展示会・カンファレンスである、MWC(Mobile World Congress・モバイルワールドコングレス)に参加したカウンターポイントリサーチのリサーチディレクターやアナリストのインサイトをお届けします。

 


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メモリ価格・供給の変動への対応
スマートフォンベンダー各社は、いま誰もが最も懸念しているメモリ価格と供給のボラティリティに対応するため、ティア別の戦略を打ち出しています。BoMコストの上昇を受けて、すでに製品価格の引き上げを実施、あるいは引き上げに着手している企業もあります。その一方で、仕様を下げたり、より安価な代替品を採用したり、十分な供給を確保するためにリサイクルされたメモリチップを使用したりすることで、「シュリンクフレーション(shrinkflation)」を取り入れる企業も出ています。利益率を守ることは、ますます難しくなっています。

デジタル・インクルージョンに注目
AIが大きな注目を集める一方で、デジタル・インクルージョンは、表立った話題にはなりにくいものの、背景で継続的に取り上げられてきたテーマであり、ここで2つの注目すべき発表がありました。GSMAは、価格の手頃さが依然として大きな障壁となっているアフリカ6カ国において、40ドル未満(sub-$40)のスマートフォン普及を推進するための連合を立ち上げました。一方、HMDは、フィーチャーフォンに高度な機能やサービスを提供し、十分に接続されていないユーザーのデジタルアクセスを拡大する計画を発表しました。例えばインドではデジタルウォレットを組み込むほか、AIアシスタントやビデオ通話を通じてデジタル・ディバイドを埋める、といった取り組みが挙げられています。

Jan Stryjak
Associate Director


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HONORとQualcomm、HONORの「ロボットフォン」でEmbodied AIを実現
HONORの「ロボットフォン」は、市場を再び活性化させています。特に、部品コストの上昇がイノベーションの抑制につながりかねない状況の中で、その存在感は大きいと言えます。Qualcommの先進的なシリコンを活用し、物理的なモーター駆動やジンバル手ブレ補正によるインタラクションを、最適化されたEmbodied AIで制御するという新しいフォームファクターは、新たなユーザー体験への扉を開きます。これは、フィジカルAIがユーザーとスマートフォンの関わり方をどのように変え得るかを再定義すると同時に、複数の自由度を活かして、より豊かなコンテンツを直感的に撮影できる可能性を示しています。

Ivan Lam
Senior Analyst


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プレミアム価格を正当化する差別化機能の提供
メモリ不足に直面する中、Motorola、TECNO、HONOR、vivoといったOEMは、現在のAI競争の枠を超えたハードウェア差別化へと再び焦点を移し、上昇するBoMコストに見合う付加価値の提供を目指しています。これらの企業は、特徴的なアドバンスドカラー、素材の仕上げ、堅牢性、モジュラー型アクセサリー設計、プロ向けグレードのジンバルカメラなどの投入によって、より高いプレミアム価格を正当化し、メモリ関連コストの上昇を相殺しようとしています。

Gerrit Schneemann
Senior Analyst


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スマートグラス、AIによって加速
XRウェアラブル市場は、3つの明確なセグメントへと分岐しつつあります。まず1つ目が、終日装着型(all-day wearables)であり、AI統合と「see-what-I-see」カメラに注力し、演算の多くをテザリングされたデバイス側へオフロードしています。2つ目が、分散コンピュートと先進光学系を活用し、リモートワークや没入型メディア体験を実現するポータブルデバイス。3つ目は、完全没入型のMixed Reality(MR)デバイスであり、オンボードと分散コンピュートを組み合わせ、よりリッチな体験を提供しています。MWC 2026では、第一のセグメントが足元の出荷ボリュームを牽引している一方で、ハイエンドMRは引き続き普及面での逆風に直面していることが示されていました。

Peter Richardson
Research VP


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データを守り、確保するためのSovereign AI
MWC 2026では、Sovereign AIは単なるバズワードから「設計図(blueprint)」へと移行しました。各国と通信事業者は、単に「誰が知能を作るのか」だけでなく、「誰がデータを所有するのか」「モデルはどこで動くのか」「それは誰に説明責任を負うのか」といった点を強く求めています。AI競争において、データ主権(data sovereignty)はコンプライアンス上のチェック項目ではなく、安全保障と経済的優位性を維持するための新たな地政学的フロンティアになりつつあります。

Marc Einstein
Research Director


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Agentic AIが主役に:理論から現実へ
MWC 2026において、Agentic AIは最も主要で、かつあらゆる場面に浸透したテーマでした。多くのAgentic AIユースケース(例:HuaweiのNetwork Optimization Agent、Tech MahindraのRevenue Recovery Agent、MCEのDevices Support & Lifecycle Agent、AGIのスマートフォン向けAgentic AI Assistantなど)が、PowerPoint上の構想レベルから現実の実装へ移行しつつあることが明確になりました。これらのエージェントは、オペレーション効率の向上、CAPEX削減、そして収益創出機会の拡大を促していくこととなるでしょう。

Neil Shah
Research VP


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通信サービスのオーケストレーションにおけるAgentic AI
課金、チャージング、eSIMのオーケストレーションなど、オペレーター機能にまたがるAgentic AIの初期導入は、AIが通信サービスをよりモジュラーで、自動化され、効率的に生成することを可能にし得ることを示しています。

Varun Gupta
Principal Analyst


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Wi-Fi 8がもたらす信頼性と、生の速度
MWC 2026でWi-Fi 8は実質的な勢いを獲得しました。QualcommのFastConnect 8800、新しいDragonwing Wi-Fi 8プラットフォーム、MediaTekのFilogic 8000シリーズにより、「次世代」は単なる予告ではなく、実際のアップグレードへと変わりつつあります。ギガビット級スループットを超えて、その価値提案は明確であり、信頼性、干渉への耐性、そして低遅延性、Wi-Fi体験全体の改善につながることでしょう。

Taimur Zafar
Senior Analyst


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Satellite IoTは、あってもなくてもよいものではなくなった
MWC 2026では、衛星接続は「脇役の物語」ではなく、IoT提供におけるデファクトかつ構造的な機能となりました。衛星機能がIoTハードウェアや通信事業者のロードマップに直接組み込まれつつあり、優れたSLAを約束する面としてのカバレッジを確保しています。これはARPUを押し上げ、解約率を下げる機会になり得ることでしょう。

Mohit Agrawal
Research Director


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AI推論においてTCOの重要性が増す
AI推論時代の勝者を決めるのは、Total Cost of Ownership(TCO・総所有コスト)になることでしょう。MWC 2026で披露されたQualcommの最新AI200ラックスケール推論ハードウェアは、NPUベースのアプローチにより大幅な省エネとコスト削減を実現し、業界最低水準のTCOを約束するとされています。

Gareth Owen
Associate Director


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エッジで動く、プライバシー・ファーストのパーソナルAIエージェント
パーソナルAIエージェントを真に有効なものにするため、業界はウェアラブルを通じた「コンテキスト認識(context-aware)」センシングへと軸足を移しています。このデータをエッジで処理することで、OEMはプライバシーとセキュリティを保ったまま、深くパーソナライズされた体験を提供できます。ウェアラブルが取得したデータにより、AIエージェントは機微なデータをクラウドへ送ることなく、ユーザーの日常をプロアクティブに管理でき、周辺環境も活用してより意味のある洞察を得られるようになることでしょう。

Claudia Krehl
Associate Director


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