れまでAppleは、USB-Cのような新機能や、時には必須と思われる機能の導入が最も遅かった企業の一つだったかもしれません。常に”最初”を追い求めることはなく、最高を目指すと主張してきました。ほとんどの場合に、Appleはこの主張を通してきましたが、昨年発表されたApple Intelligenceではそうではありませんでした。Appleは生成AIの舞台に遅れて参加しましたが、これまでの認識では、Appleが対応製品を発売すれば、業界最高になるだろうというものでした。加えて、AppleはWWDCでApple Intelligenceの具体的な実用例を印象的に披露し、強いメッセージを残しました。iPhone 16や新型Macの発売により、全製品ラインアップの告知はApple Intelligenceを中心に展開されています。米国、中国、英国、インドのiPhoneユーザーを対象にした消費者調査の結果では、77%がApple Intelligenceを認識しており、50%以上がApple Intelligence対応のiPhoneを望んでいました。期待は非常に高かったのです。
出典: カウンターポイントリサーチ Apple 360 Consumer Survey
しかし、iPhone 16シリーズにはApple Intelligenceが標準搭載されず、地域と機能の両面で段階的に展開され、ユーザーエクスペリエンスもまちまちでした。Appleはユーザーの期待に応えられなかったのです。これはiPhoneの業績にも反映され、12月度の四半期収益は前年比1%減少しました。
カウンターポイント社ではApple Intelligenceについてのユーザーコメントを把握ために、redditコメントの感情分析を実施しました。このサンプル数は少ないかもしれませんが、ユーザーが感じていることのヒントになると考えています。結果は以下のとおりです:
- ユーザーが便利だと感じ、肯定的な体験をしている主な機能は、通知の要約、校正と書直しです。
- 特にSiriに関して否定的な意見が多く、ユーザーはSiriがそれほど改善されておらず、基本的な機能が欠けていると感じています。一方で、Siriの自然言語処理とタスク処理の改善については、慎重ながらも楽観的な見方が見られます。
- Appleの書き換え機能には、より多くのカスタマイズ オプションが望まれています。
- 全体的に、ユーザーは「Apple Intelligence」をめぐる誇大広告が、期待と現時点の機能とのミスマッチを生み出し、期待外れだと考えています。
Appleの生成AIへの参入は期待通りではないかもしれませんが、緊密に張り巡らされたエコシステムにより、Appleは生成AIを活用し収益化する上で最も強力な立場にあります。Apple Intelligenceがアプリケーションレベルで統合されるにつれて、その有用性は高まるでしょう。Appleはまた、そのユースケースも拡大しています。Genmojiはあまり使いやすそうには思えましたが、AppleはクリエイティブにGenmojiを使用して招待状を作成する「Invites」という独創的なアプリを立ち上げました。これは素晴らしいユースケースです。また、「Canva」といった専用アプリもあり、ユーザーは良い招待状を作成するためにお金を払うでしょう。そして、より広義な影響もあります。Apple Intelligenceは、Appleデバイスのエコシステム全体で機能し、ユーザーについて学習してパーソナライズされたモデルを作成します。Appleはまた、AIのユースケースとエコシステムをさたに強化するために、スマートホームへの拡大も計画しています。
生成AIは破壊的な可能性を秘めていると同時に、実行するのが難しいです。ユーザーにとって実行可能な価値提案にするには、まだやるべきことがたくさんあります。また、ユーザーが生成AIを理解するには、ある程度の時間がかかるでしょう。これは単一のハードウェア機能ではなく、デバイスの使用体験全体にかかわるものです。個人の使い方によって、生成AIのキラーユースケースは将来的にユーザーごとに異なる可能性があります。Appleはまた、さまざまな Apple Intelligence機能の利点について、ユーザーをよりよく教育する取り組みも行わなければならず、それには時間がかかるかもしれません。生成AIはまだ買替のきっかけにはなっておらず、ユーザーの初期の反応は「反射的」かもしれません。しかし、機能が改善されるにつれて、Apple Intelligenceに対する認識は変わるでしょう。非常に信頼性の高いAppleエコシステムから、ユーザーが他へ乗り換えるのは難しいため、Appleには長期戦を繰り広げる余裕もあります。
本リサーチはカウンターポイントリサーチ社のApple 360サービスの一部であり、チップから端末、サービスに至るまでAppleのエコシステムを定量的にも定性的にもカバーしています。
Apple 360 で公開されているレポートの一部を以下に紹介します。(リンク先は英文になります。)
- Apple Intelligence – パーソナルAI競争をリードする最良の位置
- Apple Intelligenceが中国進出に不可欠なもの
- Apple IntelligenceはiPhoneのアップグレードサイクルに与える影響
- 鈍化するiPhone成長の一方で、衰えないAppleのイノベーション
- Apple360 製品カテゴリー別出荷予測
【カウンターポイントリサーチ社概要】
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