NVIDIAのジェンスン・フアン氏は、6月5日から始まった4日間の韓国訪問で大きな注目を集めています。韓国で「チメク」と呼ばれるチキンとビールを囲みながら、主要財閥・大企業グループのトップと相次いで会談を行っています。今回の訪問は、台北で開催されたComputexの直後に行われており、台湾と並んで韓国がNVIDIAの今後の戦略において重要な位置を占めていることを示しています。

出典:NVIDIA

NAVER会長Lee Hae-jin氏、LGグループ会長Koo Kwang-mo氏、SKグループ会長Chey Tae-won氏、NVIDIA創業者兼CEOJensen Huang氏

 

訪問日程:メモリー、ロボット、ハイパースケーラー、ゲームまで

訪問日程を見ると、今回の韓国訪問は、次世代AIに向けた供給確保と需要喚起の双方を目的としたものだったことがわかります。

  • ハイパースケーラー:LG、SK、NAVERのトップとの夕食会
  • ゲーム:韓国を代表するゲーム企業であるNCsoftとKraftonの会長らとPCカフェを訪問
  • 産業用ロボット・自動化:Doosanグループ会長と共に野球の始球式に登場し、Hyundai自動車グループとも個別に会談
  • メモリー供給など:SK hynixからSamsung Electronicsまで個別会談を実施

今回の訪問における現時点での最重要テーマと背景は、次の通りです。

 

供給面:次世代NVIDIA AIファクトリー・インフラ向けメモリー(HBM)の確保

「メモリーウォール」を突破する鍵は韓国が握っています。Computex 2026では、ジェンスン氏がSKグループのChey会長の前でウェハーに「PLEASE MAKE MORE」と書き込み、さらなる供給を求める姿勢を示しました。NVIDIAは今回の訪問を通じて、韓国との関係をさらに深めようとしています。

出典:SK hynix

Computex 2026の開催中、台湾・台北の南港展覧館にあるSK hynixのブースを訪問したNVIDIA CEOのJensen Huang氏が、HBM4Eウェハーに手書きでメッセージを記入

Vera Rubinの立ち上がりが進む中、SK hynixとSamsungによるHBM4供給に加え、Agentic AI時代におけるVera CPU向けDRAM搭載量の増加は、NVIDIAの売上成長における重要な制約要因になるとみられます。カウンターポイントリサーチのMemory Trackerによると、SK hynixはグローバルHBM市場で57%のシェアを握っており、SamsungはNVIDIA向けHBM4の採用獲得を通じてシェア奪取を狙っています。しかし、ビット供給量とパッケージングは依然としてボトルネックです。NVIDIAは、従来型のメモリーインターフェースから先端ファウンドリーのベースダイを活用した設計統合へと移行する中で、今後のHBM4およびHBM4E世代における優先的な供給枠を確保する必要があります。今回の訪問は、SamsungのHBM認定状況の進捗をジェンスン氏が直接把握する機会にもなっています。

 

需要面:Physical AIとSovereign AIが次の主要市場に。韓国はNVIDIAにとって格好のケーススタディ

Physical AIも、ジェンスン氏が韓国を訪問した重要な理由のひとつです。現代自動車のロボティクス拠点、Doosanのヒューマノイド、Boston DynamicsのAtlasは、NVIDIAが韓国を製造業とロボティクスの実証拠点として見ていることを示唆しています。重工業、自動車産業の規模、ロボティクスを併せ持つ韓国は、米国や台湾にはない独自の強みを持っています。NVIDIAにとって、新興のヒューマノイド産業におけるソフトウェア/シミュレーション層、すなわちOmniverseや基盤モデルを押さえることは、AI LLM向けGPUの先にある戦略的な市場獲得を意味します。

ジェンスン氏はメディアに対し、「ロボティクスは韓国における次の主要分野になるでしょう。これは韓国がAIに投資する大きな機会です」と述べています。

DoosanとNVIDIAは、昨年10月にPhysical AIに関する戦略的パートナーシップを発表して以降、協業を拡大してきました。Doosanは、建設、電力、ロボティクス分野のデータにNVIDIAのPhysical AIモデルを活用しています。

Hyundai自動車とNVIDIAは、韓国国内におけるPhysical AI能力の強化に向けたMOUを締結し、韓国にNVIDIA AI Technology CenterとHyundai Motor Group Physical AI Application Centerを設立するため、30億ドルを投資することで合意しました。

NAVERとの会談では、東アジアの企業向けに最適化されたローカルLLMの確保が焦点となっています。NVIDIAはNAVERを支援することで、規制やデータコンプライアンス上の要件から米国系ハイパースケーラーよりも国内・主権型クラウドプロバイダーを選好する地域企業から、高収益なインフラ需要を取り込む狙いがあります。

 

主なポイント

  • ジェンスン氏の韓国訪問は現在(※執筆段階)も続いており、今回の一連の訪問はAI成長をさらに加速させるものになるとみています。NVIDIAの貢献領域は、データセンター向けGPUにとどまらず、Agentic AIからPhysical AIへと広がっています。生成AIに対する消費者支出は、2030年までに少なくとも年間7,000億ドル規模へ膨らむ見通しであり、企業による支出はそれをさらに上回るとみられます。
  • AI需要は、半導体全体の売上を四半期ごとに過去最高水準へ押し上げています。この流れはGPUから始まり、HBMへと広がり、現在ではDRAM全体とNANDにも波及しています。今年はASICの高成長を引き起こすとみており、ハイパースケーラーが自社設計チップを活用した異種混在型AIインフラへと多様化を進める中で、ASIC向けにも別枠のHBM/DRAM供給が必要になります。そのため、NVIDIAはサプライヤーとの関係をより緊密に保ち、可能な限り多くの供給を確保する必要があります。
  • ジェンスン氏はまた、自らの影響力と市場に対するビジョンを巧みに活用し、「AIの成長ストーリーはまだ始まったばかりであり、今後も大きなブーム市場になる」という見方を市場に浸透させようとしています。これは、AIゴールドラッシュの中で、NVIDIAのパートナー企業に数兆ドル規模の企業価値を正当化するストーリーを与えるものでもあります。

*本記事は2026年6月9日に発表された記事の日本語版です。原文はこちらをご参照ください。
https://counterpointresearch.com/en/insights/jensen-korea-tour

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