• インドのEV販売は、2023年にほぼ倍増した。その背景にあるのは、消費者の関心の高まり、政府の普及推進、インフラの整備、それに気候変動への懸念である。
  • 2024年には、EV販売は66%成長し、乗用車(PV)販売全体の4%を占めると予測されている。新規参入と政府の補助金が成長を引っ張る。
  • 2030年までに、EVはインドのPV市場のほぼ1/3を占めるとみられる。同国においては、長期的な安定成長が見込まれている。

 

2023年のインドの乗用車(PV)販売は、前年比10%成長であった。しかし、電気自動車(EV)に限ればほぼ倍増しており、PV販売全体の2%を占めるに至った。EVの急成長の背景には複数の要因がある。都市部の消費者の関心が高まっていること、政府が普及を推進していること、インフラが整備されてきたこと、それに気候変動への懸念、などである。

 

充実した車種ラインナップとUberとの戦略的提携とによって、Tata Motorsはインドにおける2023年EV市場の2/3を超えるシェアを確保している。それでもシェアの一部はMahindra & MahindraとBYDに奪われた。そのMahindra & Mahindraは、乗用EVのラインナップがたった1車種にもかかわらず、2,476%の成長を記録し、2023年の最速で成長するメーカーとなった。これに次ぐのがBYDとMG Motorである。

 

Mahindraの成長は、2023年に発売した完全電動SUVのXUV400を積極的にマーケティングしたことによる。

 

BYDもインドではe6 MPVとAtto 3 SUVの2車種しかEVを売っていないが、2023年は1,500%を超える成長となった。高級車カテゴリの車種を展開しているにも関わらず、BYDはインドにおけるEVメーカートップ5社に名を連ね、成長するEV市場の中で成功していることを示した。

 

BYDが最近発売したSealによって、同社の市場でのプレゼンスと競争力がさらに高まるとみられる。インドのEV市場に大きな動きを起こしそうだ。

 

出典:Counterpoint ResearchのIndia Passenger Vehicle Model Sales Tracker

注:Citroënの市場参入は2023年

 

今後の見通し

Counterpoint Researchが提供するIndia Passenger Vehicle Model Sales Trackerによれば、インドにおけるEV販売は2024年に66%伸びて、PV販売全体の4%を占めると予想される。さらに2030年にはEVはインドにおけるPV販売全体のほぼ1/3を占めるまでに成長するだろう。

 

Maruti SuzukiのEV市場への参入でTataの独占状態に変化が起きそうだ。さらにVinFastによるインドのTamil Nadu州での工場建設にみられるように、国内でのEV製造への関心や投資が高まっている。これは、単に競争が激しくなることを意味するだけではない。自動車産業がサステナブルでエコフレンドリーな技術に進化していくことの表れなのである。

 

サプライチェインの充実について、アソシエイトディレクターのLiz Leeは以下のようにコメントした。

「インドのEVは急成長への変曲点にある。Ola、Reliance New Energy、ACC Energy Storageなどの主要プレイヤーが台頭してEV用電池の製造能力が高まったことに加え、政府のMake in India政策(訳注:2014年から政府が進める、インド国内での製造を促進する一連の政策)の後押しもあって、製造コストが下がりEV販売が加速した。政府による政策、例えば、PLI(訳注:Product Linked Incentive。インド国内で製造された商品について、売上増加分の数%のインセンティブが政府から支給される)のスキームをAdvanced Chemistry Cells(訳注:従来のリチウムイオン電池より高い性能を目指す様々な技術の総称。全固体電池もそのひとつ。)に適用したり、35,000米ドル(約540万円)を超える輸入EV車への関税を15%に引き下げたりしたことが、ゲームチェンジャーになっている。これはTeslaに門戸を開くだけではない。インドが、EVや部品メーカーのエコシステムのために巨額投資を受け入れる準備が整ったことの表れでもある。つまり、インドが世界のEV市場における主要プレイヤーになるべく動き出したことの、明確なサインでもある。」

 

出典:Counterpoint Researchの1India Passenger Vehicle Model Sales Tracker

 

今後の見通しについて、調査担当バイスプレジデントのNeil Shahは以下のようにコメントした。

「EVのエコシステムはまだ黎明期だ。インフラ整備が進み消費者の関心も高まれば、Teslaや例えばXiaomiのような急成長している中国メーカーが参入し、世界第4位のPV市場であるインドにおいてもイノベーションや競争が刺激されるだろう。それだけではない。既存の自動車産業のエコシステムは成熟しているが、スマートカーを生産するためのエコシステムにとってもインドは魅力的だ。このエコシステムには、電池も、インフォテイメントも、ADAS/ADS向けセンサー一式も含まれる。インド国内での消費だけでなく、技術のR&Dやインドからの製品輸出という面でも、広範なバリューチェイン上の企業がインド市場を重視するだろう。例えば、最先端の自動車用チップを製造するQualcommやMediaTek、安全関連のソフトを提供するBlackBerry、MIHコンソーシアム(訳注:車台などのハードから制御ソフトに至るまで、各社が得意な技術を提供して構成する、EV開発のオープンプラットフォーム)による設計・製造によってインド市場への参入の敷居を低くしたFoxconn、などが挙げられる。」

 

*注

ここではEVとはバッテリー駆動EV(BEV)を指し、プラグインハイブリッド(PHEV)は含めていない。

販売は卸値で集計している。つまりメーカー各社の工場を出荷した時点での集計である。

 

 

Team Counterpoint

Counterpoint Researchは若く急成長中の調査会社で、ハイテク業界の分析を得意としている。カバーする領域は、コネクテッド機器、消費者向けデジタル製品、ソフトウェアとアプリケーション、および関連分野のトピックスである。当社の調査チームがまとめて発行するレポートに加え、要望に合わせてカスタマイズしたレポートも提供している。また、セミナーやワークショップを企業向けに開催して好評を得ており、依頼があれば実施している。特に高精度の調査を必要とするプロジェクト向けには、コンサルティングやカスタマイズした調査活動も実施する。